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2011年5月29日 (日)

イタリア旅行記(3):怪物庭園

イタリア旅行記の3回目の記事は、ローマから車で1時間半ほど北に行ったところにある怪物庭園(Parco dei Mostri)について。

かつてここを訪れた作家澁澤龍彦がエッセイに書いたことで知られている。

ここを訪れた旅行者は、森の樹々の葉がくれにちらちら見える異様な巨人や、神話の怪獣の立ちならぶ景観に、あたかもこの世ならぬ別天地に迷いこんだかのような、強烈な印象を味うことになるのである。
《澁澤龍彦著「幻想の回廊から」より》

場所


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怪物庭園はラツィオ州ヴィテルボ県のボマルツォ(Bomarzo)という町の近くにある。

おそらく公共の交通機関はあまりなさそうなので、訪れるには車でないとつらいと思う。 ローマの空港(Fiumicino)から車で行くと約130Kmぐらいの道のりで、だいたい1時間半~2時間ぐらいで着く。

庭園に至る道

<庭園に至る道写真>

五月の爽やかな陽気の中を庭園へと向かう。

日曜日だったこともあり、ピクニックをする家族連れや、若者のグループを多く見かけた。 子供たちの楽しげな声がこだましている。 あまり怪物が出るような雰囲気ではないのだが...

ボマルツォ遠景

<ボマルツォ遠景写真>

遠くの高台の上にボマルツォの町が見える。

ボマルツォというのはオルシーニ家という名門貴族の領地だったそうで、その城が見える。

ガイドブック

<ガイドブック写真>

庭園の売店で売っていたガイドブック。展示品の1つ1つについて解説が書いてある。日本語版は無いというので、英語版を買った。8ユーロ也。

庭園に入る門

<庭園に入る門写真>

石積みの古い門が見えてきた。

この怪物庭園は、16世紀半ばに、オルシーニ家のピエル・フランチェスコ・オルシーニ(通称ヴィチーノ)が建築家のピッロ・リゴーリオに依頼して作ったものだという。

オルシーニ公の死後はずっと忘れ去られ、荒れ果てていたが、1970年ごろから整備され、今やちょっとした観光地になっている。 ただし、観光バスが大挙してやってくるような大きな観光地ではない。田舎の名所旧跡といった感じのところだ。

庭園内マップ

庭園内地図

画像をクリックすると拡大:1600x1143 約970KB

入るときにもらったマップ。

35の石像やレリーフ、建物が展示されている。

展示番号2:グラウコス

<「グラウコス」写真>

ガイドブックによると、これは海の怪物グラウコスだという。

もっとも、この庭園にある石像が何を意味しているのかは、よくわからないらしい。 というか、そもそもこの庭園が何のために作られたのかもよくわからないらしい。

頭の上の球体の上には建物のようなものが載っている。球体は世界を表し、建物はオルシーニ家の居城を表すという。

展示番号4:巨人たちの戦い

<「巨人たちの戦い」写真>

これはこの庭園でよく引き合いに出される像だ。

澁澤龍彦は以下のように書いているが...

仰向けになった犠牲者(胸部や腕の筋肉は青年を思わせるが、上から見ると、男根のないふくらんだ下腹部が、むしろ女のものであることを明らかにする)の苦悶の表情が、生ま生ましく石に刻みつけられられ、そのあまりに荒々しい、残酷なエロティシズムが、見る者を茫然とさせる。
《澁澤龍彦著「ヨーロッパの乳房」より》

うーん、そうかな...そうとも見えない。

ガイドブックではこれを「ヘラクレスとカクス」と説明している。牛を盗んだカクスをヘラクレスが八つ裂きにするという場面だという。

展示番号5:亀

<「亀」写真>

亀の上に台座みたいなものが載っていて、その上に球体があり、その上に女性が立っている。 今は欠けてしまっているが、女性は、その昔、ラッパを吹く姿であったという。 球体はおそらく世界を表し、女性は勝利を表すという。

展示番号13:傾いた家

<「傾いた家」写真>

何故か傾いた家。

中に入ることができる(何も無い部屋があるだけだが)。入ってみると、平衡感覚がおかしくなってクラクラする感じがする。

展示番号14:ケレス

<「ケレス」写真>

ボードレールの願望であった巨女憧憬の夢想を満たすのに、これほど適切な創造物はあるまい。「彼女の豊満な肉体の上を悠然と漫歩して、そが巨大なる膝の傾斜(なぞえ)を這いのぼり・・・・・・・」。
《澁澤龍彦著「ヨーロッパの乳房」より》

ガイドブックではこれは農耕の女神「ケレス」だと説明している。 頭の上に籠みたいなものを載せているが、何なのかよくわからない。

ケレスの背後には、これまたなんだかよくわからない彫刻がある。

<「ケレスケレスの後ろ」写真>

逆さまになった何者かと、それを両脇から抱える羽根の生えた人魚のような何者か。 なんだかよくわからないが...

これはどう眺めても、倒錯的なエロティックな行為を表現しているとしか思われず、私たちを唖然とさせるに十分な構図である。
《澁澤龍彦著「ヨーロッパの乳房」より》

ガイドブックでは、両脇の者はトリトン(男の人魚)で、逆さまになっているのは清めの沐浴だと説明している。

展示番号19:オーガ

<「オーガ」写真>

怪物庭園で一番の人気、みんながこの前に立って記念写真を撮っていた。

地面から首だけ突き出して、絶叫している怖ろしい地獄の魔王の顔のようである。 この顔の口は直径二メートルを越えるから、優に人間が立って通れるだけの大きさを有し、一種のグロッタになっている顔の内部には、石を刻んだテーブル(同時に舌に見立ててある)が備えつけてある。 かつて、オルシニ侯に庭を案内された客人が、ここで、しばしの疲れを休め歓談したものと想像される。 グロッタの内部で笑い声でも立てれば、その声は大きく反響して、口から外へ飛び出し、あたかも地獄の魔王が哄笑しているようにも聞えたことであろう。何という奇想天外なアイディアだろう。
《澁澤龍彦著「ヨーロッパの乳房」より》

展示番号20:ドラゴン

<「ドラゴン」写真>

犬のような動物と格闘しているドラゴン。

展示番号21:象

<「象」写真>

兵士を鼻で巻き込んでいる象。背中には櫓のような構築物。これはハンニバル軍のイメージだろうか。

展示番号23・24:ネプトゥヌスとイルカ

<「ネプトゥヌスとイルカ」写真>

海の神ネプトゥヌスと、大口をあけたイルカ。

イルカというよりもクジラというほどの大きさだが。

展示番号25:眠るニンフ

<「眠るニンフ」写真>

澁澤龍彦曰く「仰向けに寝たみだらな姿のニンフがいる」。

展示番号27:フリアエ

<「フリアエ」写真>

上半身はわりと美しい女性像だが、下半身は蛇のようになっていて、背中には羽がある。フリアエというのは復讐の女神の一人だという。

展示番号28・29:ライオンとエキドナ

<「ライオンとエキドナ」写真>

フリアエと向かい合うようにしてエキドナがあり、両者の間には2頭のライオンがいる。

エキドナはやはり上半身が女、下半身が蛇になっている。ケルベロスやスフィンクス、ヒドラなど様々な怪物たちの母だという。

展示番号31:松ぼっくりとドングリの広場

<「松ぼっくりとドングリの広場」写真>

平らな広場のような場所があって、周りに松ぼっくりとドングリをかたどった石柱が並んでいる。

展示番号32:プロセルピナ

<「プロセルピナ」写真>

松ぼっくりとドングリの広場の入り口に、広場を見渡すようにある冥界の女王プロセルピナ。下半身は何故かベンチのような形になっている。

展示番号33:ケルベロス

<「ケルベロス」写真>

プロセルピナの背後には冥界の番犬ケルベロスがいる。頭が3つある。

展示番号34:霊廟

<「霊廟」写真>

最後に小さな神殿のような建物がある。

私たちはさらに階段をのぼり、この「聖なる森」のなかでいちばん高い、広々とした丘の上に出た。
そこには、今までの怪奇な彫刻群とは全く趣きを異にした、古典的な様式の列柱と円屋根のある、小さな美しい霊廟があった。(中略) オルシニ侯が、若くして死んだ美貌の妻ジュリア・ファルネーゼの霊を慰めるために建てたものだという。
《澁澤龍彦著「ヨーロッパの乳房」より》

おわりに

陽気が爽やかだったせいかもしれないが、自分が見たところでは、この庭園に澁澤龍彦が書いたほどエロティックな意味合いは感じなかった。ただ、確かに、普通の西洋古典美術の世界からは外れた別の世界があるように思った。 オルシーニ公が何を考えてこの庭園を造ったのは謎のままだが、美術史の表舞台にはあらわれない何かがそこにはあったように思う。

参考文献

この記事を書くにあたり、以下の文献・Webサイトを参考にさせていただいた。

  • Soc. Giardino di Bomarzo発行「BOMARZO A guide to THE PARK OF THE MONSTERS」
    (庭園の売店で買った英語版のガイドブック)

  • 澁澤龍彦著「幻想の回廊から --- ボマルツォの聖なる森」
    河出書房新社発行「澁澤龍彦全集8」(ISBN 4-309-70658-4)に収録

  • 澁澤龍彦著「ヨーロッパの乳房 --- バロック抄 ボマルツォ紀行」
    河出書房新社発行「澁澤龍彦全集12」(ISBN 4-309-70662-2)に収録

  • ジェイムズ・ホール著/高階秀爾監修「新装版 西洋美術解読事典」
    河出書房新社発行、ISBN 4-309-26750-5

  • 荒俣宏・泰子著「日本語カーナビで行く ヨーロッパ・レンタカー旅行完全ガイド イタリア編」
    角川書店発行、ISBN 978-4-04-885017-9

  • ウィキペディアの 澁澤龍彦ボマルツォオルシーニ家ピッロ・リゴーリオエリーニュースエキドナ のページ

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