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2010年11月 8日 (月)

アルブレヒト・デューラー版画・素描展@国立西洋美術館

今回の記事は、国立西洋美術館で開催されている「アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然」について。

展覧会概要

金曜日の夜に行ったら、すごく空いていた。一般に、版画の展覧会というのは、作品が小さくて細かいので、お客さんの流れが悪くて、見るのに苦労することが多いが、今回の展覧会はゆったりと鑑賞できた。

ギャラリートークにも参加してみた。 会場内を説明員が引率して回る形式で、参加者は20か30人ぐらいだったと思う。 説明してくれたのは新藤(しんふじ)さんという若い研究員の方だったが、説明のポイントがわかりやすくて、話し方もうまかったので、よくわかった。とても勉強になった。

展示品数は全部で157点あり、小さくて細かい作品が多いので、じっくり見ていると、結構疲れる。ジャンル的にはキリスト教の宗教画(特に新約聖書の主題)が半分ぐらいだったと思う。その他に、神話画、肖像画、風俗画、動物画、それから、どういうジャンルと言っていいかよくわからないものもある。

自分としては、初めのほうにある「大受難伝」の連作、中盤にある「神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門」、そして最後の部屋に展示されていた「アダムとイブ」と、いわゆる三大銅版画が、よかったと思う。

アルブレヒト・デューラーについて

アルブレヒト・デューラーは、1471年生まれ、1528年没。 ちなみにレオナルド・ダ・ビンチが1452年生まれで1519年没、ミケランジェロが1475年生まれで1564年没、ラファエロが1483年生まれで1520年没、だから、 ちょうどイタリアでは盛期ルネッサンスだった時代になる。

南ドイツの都市ニュルンベルグで生まれ、生涯に何度かイタリアやネーデルランドなどへの長期旅行もしたが、基本的にはずっとニュルンベルクに住んでいたという。当時この辺りはハプスブルグ家の神聖ローマ帝国の中にあり、ニュルンベルクはケルンやプラハと並ぶ神聖ローマ帝国の主要都市の1つだったそうだ。 交通の要衝にあり、特にドイツとイタリアを結ぶ貿易で発展したという。 デューラーも生涯に2度イタリアへ旅行をし、ルネッサンスの最新の絵画表現をドイツへ持ち帰ったという。


以下に、今回の展覧会で、個人的によかったと思った作品をいくつか挙げる。

大受難伝

「大受難伝(10)埋葬」図版

新約聖書の最後の晩餐から復活までを、12枚の連作で描いた木版画(図はその中の一枚「キリストの埋葬」)。

この連作は本の形で出版されたもので、裏面にはテキストが印刷されているそうだ。 つまり、本を見開いた時に、片側が本文、片側が絵、という形になる。 デューラーは絵を描くだけでなく、出版全体を取り仕切る、プロデューサー的なことまでやっていたという。

ぱっと見、描写が細かくて、よくわからない感じだが、じっくり見ていると、よくここまで描き込んだものだと、見入ってしまう。

風景も含めて全体的にリアルな情景の中、ドラマチックな人物像で、見る者の感情移入を誘うところは、 デューラーがイタリア旅行で得たルネッサンス絵画の影響を受けてのものだそうだ。

神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門

「神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門」図版

49枚の版画を組み合わせて、縦約3.4m横約2.9mの大画面を構成し、凱旋門という形で、皇帝の偉業や、ハプスブルグ家の家系などが、びっしりと描き込まれている。

描写が細かくてよく見えないが、全体としてはすごい迫力で、皇帝の偉大さを印象付けられる感じがする。

イタリアならば、この種の絵はフレスコ画で宮殿とかに描くのが普通だったそうだが、そこを版画で刷って配布するというあたり、イタリアとは違う文化があったらしい。

「神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世」図版

ちなみに、こちらがそのマクシミリアン1世の肖像。

生前の素描をもとに、皇帝が亡くなった後に版画として制作され、皇帝を追悼する国民に販売されたという。

ダムとイヴ

「アダムとイヴ」図版

展覧会カタログの解説によると、デューラーが理想的人体のプロポーションを研究した集大成となる銅版画、だそうだが...ちょっと違和感があるような気がする。やっぱり、昔と今とでは、感覚が違うんじゃないかという気がする。

足元には猫、兎、背景には鹿、牛が描かれている。 これは、展覧会カタログの解説によると、人間の四気質(猫=胆汁質:激しくて怒りっぽい、兎=多血質:軽くて陽気、鹿=憂鬱質:暗くて冷酷、牛=粘液質:怠惰で不活発)を表すという。

旧約聖書の絵に、医学の寓意も含まれているとは ... デューラーの絵は一筋縄ではいかない。

三大銅版画

展覧会の最後を飾るのは、デューラーの三大銅版画と言われる「騎士と死と悪魔」「書斎の聖ヒエロニムス」「メレンコリアI」の3作品。 美術史の本などで見たことがあるが、実物を見るのは初めてだ。

「騎士と死と悪魔」図版 「書斎の聖ヒエロニムス」図版 「メレンコリアI」図版

「騎士と死と悪魔」は、展覧会カタログの解説によると、典拠はわからないらしいが、おそらくは、死神や悪魔を恐れずに進む騎士の姿を描いたもの、らしい。 騎士の姿もさることながら、馬がカッコいい体躯で、かなりリアルに描かれているのが、すごいと思った。

「書斎の聖ヒエロニムス」は、聖書を初めてラテン語に翻訳した神学者の姿を描いたもの。 修行をしていたときに、足に棘が刺さって苦しんでいたライオンを救ったというエピソードがあり、この絵にも手前にライオンが描かれているが、これはあまりそれらしくない。 ライオンというものを実際に見たことが無かったのだろうか。

「メレンコリアI」ついては以前、若桑みどり著「イメージを読む」で、この絵の解釈について読んだことがある。 この絵もまた、典拠はわからず、謎は深いようだが、おそらくは当時の科学者あるいは技術者の寓意ではないかと思う(この当時にも科学者とか技術者という概念があったのかどうかはよくわからないが)。 自分も技術者のはしくれとして、描かれている事物の意味はよくわからないものの、なんとなく共感したい気がする。


参考文献

この記事を書くにあたり、以下の本・Webサイトを参考にさせていただいた。

  • アルブレヒト・デューラー版画・素描展 展覧会カタログ

  • 美術出版社刊 「[カラー版]西洋美術史」

  • 筑摩書房刊(ちくま学芸文庫) 若桑みどり著 「イメージを読む【美術史入門】」

  • ウィキペディアのニュルンベルクアルブレヒト・デューラーのページ

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