アタランテとヒッポメネス
先週、国立西洋美術館で開催されているカポディモンテ美術館展で、グイド・レーニ作「アタランテとヒッポメネス」を見たのを機会に、この物語を読んでみた。
オウィディウス変身物語では、巻十で、ウェヌスがアドニスに語った話の中に出て来る。 その概略を以下に:
物語の概略
アタランテがある日、どのような夫と結婚したらよいか神託を乞うたところ、神が答えて言うには「おまえには夫はいらない。結婚は避けよ。しかしながら、おまえは避けきれないであろう。そして、本来の自分を無くすであろう。」
これを恐れたアタランテは結婚せずに暮らした。求婚してくる男たちから逃れるため、厳しい条件を設けた --- 競走で自分と勝負して勝った者と結婚する、ただし負けた者には死んでもらう --- という。
こうした冷酷な条件にも関わらず、アタランテの美貌のゆえ、多くの求婚者が現れ、そして敗れて死んでいった。ヒッポメネスも、初めは何故そんな危険を冒してまで挑戦するのかと疑問に思っていたが、アタランテの美貌を目の当たりにした瞬間、我を忘れてしまった。そして、アタランテの前に進み出ると、彼女をじっと見つめて、競走を挑んだ。
そんなヒッポメネスの若々しさに、アタランテも心を惹かれた。彼を死なせたくないと思う。しかし、神託により結婚は避けねばならない。負けるべきか、勝つべきか、彼女の心には激しい葛藤が生じていた。
ヒッポメネスは競走の前にウェヌスの加護を求めた。ウェヌスはそんなヒッポメネスに心動かされたが、競走まで時間が無かった。そこで、たまたま手にしていた黄金のリンゴを3つ、彼の前だけに姿を現して、手渡した。負けそうになったら、このリンゴを投げて、アタランテの気をそらすようにという。
競走のラッパが鳴ると、二人は飛ぶような速さで走った。アタランテはヒッポメネスを抜き去れるのに、ためらい、ヒッポメネスの顔をしばし見ては、彼を後にすることを何度もしていた。
ヒッポメネスはやがて喘ぎ始めたが、ゴールはまだ遠かった。ヒッポメネスはとうとう黄金のリンゴの1つを投げやった。アタランテは驚き、黄金のリンゴを手に入れようとコースを外れた。その隙にヒッポメネスは彼女を抜き去ったが、しかしアタランテはすぐさま遅れを取り戻し、再びヒッポメネスを再び抜き去った。
ヒッポメネスはもう一度黄金のリンゴを投げやった。アタランテは、再び一旦は遅れはしたものの、やはり再びすぐに遅れを取り戻した。
コースの最後に近くなって、ヒッポメネスは力を込めて3つ目の黄金のリンゴを競技場の遠くへと投げやった。アタランテはそれを取りに行こうか迷っているようだった。それを見ていたウェヌスは、アタランテが取りに行くよう仕向け、しかも黄金のリンゴの重さを増して、彼女を遅らせた。その結果、ヒッポメネスは競走に勝つことができた。
こうしてヒッポメネスはアタランテと結ばれた。しかし、彼はそのことに対して、ウェヌスへの感謝を怠っていた。 ウェヌスは怒り、二人に罰を与えようと考えた。
二人が旅の途中、たまたまキュベレ(古代に信仰された大地の女神)の神殿の近くで休んでいるとき、ウェヌスはヒッポメネスの心を欲情でかき乱した。二人は近くにあった洞窟に入りこんで交わったが、そこは古代より聖域とされている場所だった。それを見て怒ったキュベレ神は、二人を恐ろしい獅子の姿に変えた。
グイド・レーニの絵について
変身物語に書かれたアタランテとヒッポメネスの話は以上のようなものだが、要するに、若々しい二人の愛を懸けたレースの物語だ(最後はあまりよくないことになるが...)。グイド・レーニの絵は、そんな二人の活力を見事に描き出した作品だと思う。
黄金のリンゴが勝負のカギを握る重要なアイテムとなっているが、この絵では、アタランテの左手にすでに1つ黄金のリンゴがあるので、2つめを拾おうとしている場面を描いたものだと思う。3つめはおそらく、ヒッポメネスの隠れた左手にあるということなのではないかと思う。
参考文献
この記事を書くにあたり、以下の本・Webサイトに掲載されている情報を参考にさせていただいた。
- 中村善也(なかむら ぜんや)訳 岩波文庫赤120-2 「オウィディウス 変身物語(下)」
- Ovid Illustrated - Univ. of Virginia Electronic Text Center
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